“館”という名称だが、独立の建物ではない。教育文化センター内の一室である。
また、専任のスタッフがいるわけでもない。だから企画展もないし、展示のリニューアルもあまりない。
それでも、西宮市にとっては、ようやくできた平和資料館である。
一目で見渡せる室内は、5つのコーナーに分かれている。
「戦争と家族」
「戦地にて」
「戦時下のくらし」
「空襲」
「未来へむけて」の5つ。ほとんどが被害面の展示である。
西宮市南東部(戦争当時は鳴尾村)には日本有数の軍需工場である川西航空機があったのだが、それについては控えめに記述されるのみで、写真もない。
その工場に関連して甲陽園に地下壕があり、戦時体制と朝鮮人労働についての生きた教材なのだが、これも記述のみである。
数はそう多くないものの、市民から寄贈された遺品などの実物や写真を使った見やすい展示がされている中で、これらの説明には物足りなさを感じる。
物足りないと言いだせば、いくつもあるのだが、もうひとつだけ言えば、「火垂るの墓」である。
フィクションとはいえ、作品の価値はゆるぎないものがある。西宮が舞台であり、アニメ化(原作に劣らぬ価値があり、普遍性では原作をしのぐ)にあたっては綿密なロケハンを行ったということで、いまの西宮に縁が深い。
この作品に全く触れないのは、なんとも、もったいない。
くらしに関わる展示物は、戦争を身近に感じさせる点で有意義である。
わがまちの空襲被害の展示も同様である。それはいいのだが、それだけに終わっては、「戦争は嫌だ」というところにとどまってしまう。
「なぜ戦争になったのか」「どうしたら戦争をなくせるか」といったことを考えるためには、反省的にふりかえる視点が必要である。
「罪もない市民が戦争に巻き込まれた」ではなく、市民も戦争に関わっていた、それをどうとらえてこれからに生かすのかを考えるきっかけになる素材が西宮にはあるのに、それが展示に生かされていない。
「未来へむけて」のコーナーだけは、やや趣が違う。
平和非核都市である西宮市の取り組みが展示され、子どもの活動や作品の展示もある。
ただ、惜しむらくは市の取り組みばかりで、各校園での平和教育の取り組みや作品の紹介がない。
それがあれば、平和教育の活性化につながるのではないだろうか。
西宮市平和資料館は、ささやかではあるが、戦争博物館ではなく平和博物館である。
改善を望む点はあるが、その方向性は評価すべきであろう。
また、学校の集団見学を行うなど利用者を増やす取り組みをすることで、よりよい資料館にしていくための環境作りをしていくことも大切であると考える。